
第2回授業 「チェンジメーカーになろう!
―持続可能な地球社会のつくりかた―」
7月30日(日)14:00~16:00 横浜市立大学ピオニーホール(横浜市金沢区)
講師:上村 雄彦(うえむら・たけひこ)先生
(横浜市立大学 国際教養学部教授)
受講者44人(4年生9人、5年生19人、6年生16人)
子ども大学ではこれまでSDGsの授業などを通して地球規模の問題について学んできました。貧困や気候変動、環境破壊など問題は多岐にわたりますが、それらはいずれも私たち人間が引き起こした問題でした。国際機関や研究者などがさまざまな取り組みを続けていますが、事態が好転する兆しは見えてきません。世界の英知を結集しても解決に至らないのはなぜなのでしょう。地球に暮らす私たちは何をすればよいのでしょう。国連やNGOなどの勤務経験もある上村雄彦先生に、グローバル政治という観点から問題解決のヒントを教えてもらいました。
また、授業内容が詳しく解説されている『世界の富を再分配する30の方法 ―グローバル・タックスが世界を変える―』(上村雄彦編著、合同出版刊)が全員にプレゼントされました。
授業の概要を紹介します。
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――はじめに
みなさんの中にもスマートフォンを使っている人がいると思いますが、線がつながっていないのに音が聞こえるのはなぜでしょう。電子レンジは火をつけていないのになぜ中のものが熱くなるのでしょう。ともに電磁波の働きによるものです。スマホは電磁波を使って通信を行い、電子レンジは電磁波が水分を揺らし摩擦を起こすことで熱を発生させます。私たちもスマホを体に近づけすぎると電磁波を浴びて健康障害の原因になることもあるので、体から距離を置いて使うよう心がける必要があります。
このように、便利な時代を生きるうえで気をつけなければいけないことはたくさんあるのですが、きょうはもっと大きな話をしたいと思います。地球の話です。みなさんはこの地球で生まれました。そして今ここで生き、いずれここで死んでいきます。地球はとても大切な星です。その地球が危機に瀕(ひん)しているのです。
――地球は危機的な状況にある

世界では今、貧困による飢餓(きが)や栄養失調のせいで6秒に1人の割合で子どもたちが死んでいます。紛争やテロは約30の国で続いています。森林破壊が進み1秒間にサッカーコート1面分が失われています。地球温暖化も加速しています。地球の平均気温が産業革命時と比べ何度上がったらダメかという数字を世界の科学者が議論して示しました。1.5度です。残念なことに2030年には超えてしまいます。1.5度の上昇で南極西側の氷床は融解(ゆうかい)します。2度上がるとグリーンランドの氷床やシベリアの永久凍土が溶け、そこに閉じ込められているメタンガスが放出されて温暖化に拍車がかかります。南極の氷の厚さは平均2500メートルです。今後100年間で現実になることはありませんが、仮に南極の氷が全部溶けたとしたら世界の海水面は70メートル近く上昇し、島や沿岸部は水没して地球は破滅的な状況になってしまいます。平和な日本で暮らしていると気づかないこともありますが、地球はすでに待ったなしの、人類にとって生存危機の状態にあるのです。
――問題の根幹を見つけよう
こうした状況に何としても歯止めをかけなければなりません。それには問題を根本から解決する人が必要です。私はそういう人をチェンジメーカーと呼んでいます。チェンジメーカーを増やし、その一人ひとりが行動していくことで地球を救うことができると思っています。それともう一つ、世界の仕組みや構造を変えていくことが必要です。では問題の根幹とは何でしょう。まず、問題を生み出している世界の仕組みについて考えてみます。
① 主権国家体制
現状の問題を生み出している原因として、主権国家体制という国際政治の仕組みが挙げられます。地球上にはいろいろな国がありますが、国々を束ね地球全体をまとめる政府はありません。現在の国際社会は主権国家体制のもとに成り立っており、それぞれの国の権利は不可侵で最も優先されるべきものとされています。ですから各国が一番大事にするのは自分の国の利益です。アメリカの大統領も日本の首相も自分の国のことを第一に考えることを求められています。国益のほうが地球の利益より重視されるわけです。
② 資本主義経済
次に資本主義という経済の仕組みがあります。すべてをお金でやりとりする経済体制のことです。この体制のもとでマネーゲームが膨張(ぼうちょう)しています。実際に物やサービスを売り買いする経済を実体経済と言いますが、世界の実体経済の規模は2012年時点で日本円にして7942億円です。一方、実態のないバーチャル経済というものがあります。株や債券(さいけん)、通貨などの売買で利ざやを得る取引です。安い時に買って高くなった時に売ればもうかりますよね。このバーチャル経済に注ぎ込まれる金融資本は9京(けい)9110兆円で、実体経済の12倍以上になっています。たとえば社会のためにがんばっている会社の株を買って応援しようとするのならよいのですが、マネーゲームの当事者たちはそうは考えません。武器を売る企業であろうがなんであろうが、自分がもうかりさえすればよいのです。そのために彼らは1秒間に1000回以上も取引を繰り返したりします。金融資本が求めるものは短期的利潤だけです。この金融資本には企業も国も逆らえません。逆らえば株や国債が売られ、企業は倒産するし国は経済破綻(はたん)してしまうからです。
③ タックス・ヘイブン
こうした利益を得ても税金を納めてくれればよいと思うかもしれませんが、彼らは税金もきちんと払ってはいません。マネーゲームでもうけたお金は、タックス・ヘイブン(租税回避地)という税金のかからない、あるいは税率のきわめて低い地域に貯められています。そこにペーパーカンパニーを作って帳簿上でお金を移し、本国で課税されるのを免れているのです。タックス・ヘイブンの地域は入出金の手数料などで稼ぎ、預金者や額などに関する情報は外部に明かしません。みなさんがふだん外食やスマホ、検索サービスなどで利用している世界的な有名企業もタックス・ヘイブンを使っています。ここに秘匿(ひとく)されているお金は5000兆円に上ります。SDGsの問題解決に必要な費用は年間400兆から500兆円と言われていますから、それを軽く上回ります。
④ トランスナショナル資本家階級
こんなお金を一体だれが持っているのでしょう。世界にはトランスナショナル資本家階級と呼ばれる富裕層がいます。マネーゲームに投資して年間約130億円以上の不労所得を得ている人たちです。世界に最低13万人おり、この富裕層の収入だけで年間1700兆円に上ります。彼らはこうした資金を使って多国籍企業を支配し、世界の政治家をコントロールしていると言えます。
グループ学習(解決に向けて)
主権国家体制、資本主義、タックス・ヘイブン、トランスナショナル資本家階級という四つの問題の根幹について考えたところで、グループ学習に移りました。「地球を救うための根本的な解決策」について、まずそれぞれが思いついたことを書き出します。続いて隣の人とペアになってお互いの書き出した意見を交換して述べあい、発表しました。その中から出された意見は以下のようなものでした。
・自給自足を心がけ、食物の輸入を減らす。
・植林を義務化し、燃料を植物でまかなう。
・海水を人工的に氷にし、南極の氷が溶けるのに備える。
・富を持つ人々が貧しい人たちに寄付をする。
・税率を高め、その税金を途上国に回す。
・タックス・ヘイブンを廃止。貯まっているお金をSDGsの解決に充てる。
・地球のことを第一に考える世界規模の中央政府をつくる。
――地球レベルの解決策は

素晴らしい意見がたくさん出ました。ぜひ実践していきたいですね。それでは私が考える解決策についてお話しします。
まず、グローバル・タックス、地球レベルで税金の制度を整えることです。もし日本に税金がなかったらどうなるか考えてみましょう。税金のない社会は果たして幸せでしょうか。政府にはお金がなくなり、警察や消防などの活動は維持できなくなります。教育や医療、福祉にかけるお金もなく、年金も払えません。これらは税金でまかなわれているのです。しかし、国の税金はあっても、地球社会の税金というのはありません。ですから各国が話し合って新しく作る必要があります。共通のルールをつくり、課税のために必要な情報を共有します。そして国境を越えた革新的な課税を行います。たとえば、ガソリンや電気を使えば使うほど税金がかかる地球炭素税のようなものをつくり、その税収で再生可能エネルギーの開発を行うのです。課税や徴税、分配のための透明で民主的な地球規模のガバナンスを構築します。グローバル・タックスが実現すると年間300兆円の税収が得られ、投機的な取引が抑制されます。
次に、世界政府の創設です。この政府は地球規模の課題の解決と人類の生存確保を目的とします。世界議会を設け、各国代表による一院と地球の利益を代表する二院とを置きます。ここでは人類の生存に関わる問題だけを議論します。そして議会で決まった政策を実行する世界政府をつくり、それを法律で規定する世界憲法も制定します。さまざまな団体や専門家の組織も作りいろいろな声を聞いて、世界のことをみんなで決める仕組みを作ろうということです。国連ではだめなのかと考えるかもしれませんが、現在の国際機関は財源が加盟国の拠出金(きょしゅつきん)で運営され、理事会は政府代表に限られるなど、大国の意向が強く反映されます。いわば国連もそれぞれの国の下に位置しているのです。
――世界政府は実現できるか
世界政府の実現にはグローバル・タックスの導入が不可欠です。グローバル・タックスは多数で多様な納税者を確保できます。国際機関はこれまで各国に拠出してもらったお金で運営してきましたが、地球規模の税があれば世界政府が自分の財源である税収を地球の課題にまっすぐ振り向けることができるのです。一部の加盟国の意向でなく、透明性の高い民主的な議論と説明責任が尊重されるようになります。実はすでに航空券連帯税というものがあります。国際線の航空券に低率の税をかけるものです。日本は導入していませんが、世界10数か国で導入されています。ユニットエイドという国際機関が創られ、その税収を途上国の貧しい人々がエイズや結核など感染症の治療を受けることができるような活動をしています。このような機関が増え、地球炭素税や武器輸出税といったようなグローバル・タックスができてくると世界は変わってくると思います。こうした国際機関がまとまっていくと世界政府につながっていくと思います。世界の問題は解決する可能性があるのです。
また、11月には東京でユナイテッド・ピース・インターナショナルという組織がノーベル平和賞受賞者を招待し、世界政府を考えるサミットを開催します。このように、いまの地球の危機をきちんと認識し、持続可能で平和な世界をつくろうという動きがしっかりとあるのです。みなさんもチェンジ・メーカーになって一緒にハッピーな地球社会をつくっていきましょう!
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