
第5回授業 「最近の気象災害と、地球温暖化の将来予測」
――明るい未来へのアイデアを考えよう――
2月12日(日)14:00~16:00 横浜市立大学ピオニーホール(横浜市金沢区)
講師:岩谷 忠幸(いわや・ただゆき)先生
(気象予報士、防災士、オフィス気象キャスター代表)
受講者69人(4年生21人、5年生22人、6年生26人)
新聞やテレビニュースなどで連日のように取り上げられる地球温暖化。干ばつや森林火災、海面の上昇など世界の至る所から影響が報告され、日本でも猛暑による熱中症や豪雨災害などの問題が年々深刻になってきています。SDGsにも「気候変動に具体的な対策を」として挙げられています。
今年度最後の授業は、テレビで気象解説を担当し、国や自治体で温暖化対策の委員も務めた岩谷忠幸先生と一緒に温暖化について考えました。前半は講義。二酸化炭素が水に溶け込む実験などを交えながら、気温の推移や将来の世界の気象について学びました。後半はグループワーク。4〜5人ずつのグループに分かれて温暖化防止の取り組みについて話し合い、自分たちの考えを発表しました。
授業の様子を以下に抜粋して紹介します。まず岩谷先生の講義から。
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――はじめに
おととい雪が降りました。皆さんの家の近くは積もったでしょうか。相模原周辺は5㌢以上積もりましたが、横浜、川崎はほとんど積もらず、内陸の方では少し積もった程度でした。同じ神奈川県内でも違いがあります。天気はむずかしい。予報が大きく外れることもあります。しかし、むずかしいからこそやりがいがあります。
私は30年以上天気予報の仕事をしてきました。現在は主にテレビ局でアナウンサーなどが読む天気予報や気象災害の原稿を作ったりチェックしたりする仕事をしています。皆さんが生まれる前には15年ほど気象キャスターもしていました。
――2100年の天気予報
ということで、ここで未来の天気予報をやってみます。
☀️ ☁️ ☔︎ ⛄️
2100年、未来の天気予報です。今日も非常に厳しい暑さとなりました。熊谷では45.2度、名古屋で44度、横浜では41.6度を観測しました。きょうまでに全国で12万人が熱中症で病院に運ばれています。気温が30度以上の真夏日の日数は大阪で142日、横浜でも100日を超えています。
あすの予報です。全国的に晴れて厳しい暑さになりそうです。各地で40度以上、名古屋44度、福岡42度、横浜でも42度が予想されています。
雨が降らず農作物が枯れる被害が発生している一方で、局地的に激しい雨が降り崖崩れも発生しています。さらに南の海上には台風が発生しました。中心気圧は895hPa(ヘクトパスカル)、この後日本列島に接近し上陸する恐れが高くなってきました。大雨や暴風雨、高潮などに厳重な警戒が必要です。
☀️ ☁️ ☔︎ ☃️
どうでしょう。こんな日が現実に来ると思えますか。実は今挙げたのはいい加減な数字ではありません。このまま温室効果ガスを出し続けると2100年にはこうなると世界の研究者が予測した数字です。
――世界の気温上昇
それではここでクイズです。去年の世界の年平均気温は産業革命前に比べて何度上昇したでしょうか。①1.2度、②2.0度、③4.8度の三つから選んでください。産業革命は日本でいうと江戸時代の終わりから明治の初めにかけて、だいたい140年ぐらい前になります。
正解は①番。もっと上がっているイメージがあるかもしれませんが、実は1.2度です。②は横浜の過去100年間の平均気温の上昇幅、③は世界の2100年ごろの上昇幅です。横浜は世界平均より上がっていますが、これには都市化の影響もあります。都市は熱を吸収するアスファルトに覆われています。夏に、冷房のためにエアコンを使うことも影響しています。エアコンは外に熱風を出しているのです。
――何が起きているか
温暖化によってこれまでどういうことが起きているか映像で検証します。
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地球温暖化が進み、海の氷がこれまでにない速さで溶けています。北極圏の氷は2002年に日本の面積の約15倍570万平方キロメートルほどありましたが、2012年には日本の面積の6倍が溶けてしまいました。陸地を覆う氷も多く失われています。大陸の氷から流れ出す水は海に流れ込み、海水の量を増やしています。白い氷や雪は太陽の熱を反射します。氷や雪がなくなるとさらに多くの太陽の熱が陸地や海に吸収され、地球の温度がますます高くなってしまうのではないかと心配されています。
海も温度が上がっています。暖かくなることで海の水が膨らむと海の高さが高くなります。氷が溶けたり海が温まったりして、これまでの110年間で約19センチ高くなりました。例えば海の高さが80センチ高くなってこれまでにない強さの台風が来た場合、東京湾岸では山手線内側の3分の2にあたる広さが水に浸かり21万人が被害を受けると予想されています。
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――日本はどうなっている
日本国内の過去の最高気温は熊谷(埼玉県)と浜松(静岡県)で観測した41.1度です。横浜でも2016年に37.4度を観測し、最高気温が35度以上の猛暑日も17年に7日を記録しました。猛暑日は50年ほど前はなかったのです。最低気温が25度を下回らない熱帯夜も最近10年間で30日もありました。2100年には猛暑日が1か月半ぐらい、熱帯夜は3か月以上になると予測されています。
また、毎年のように台風や集中豪雨で多くの人が命を落としています。日本には堤防やダムなどしっかりした防災技術と設備がありますが、それを越えてしまうのです。去年の台風14号は中心気圧940hPaで上陸しました。気圧が低いということは強烈な風が吹き、ものすごい雨を降らせるということで、このような台風が日本まで勢力が衰えないままやってくるようになりました。なぜかというと台風は海からエネルギーをもらっているからです。日本の南の海水温が以前の約28度から上がり、30度前後になる年も出てきました
――温暖化の原因
ではなぜ地球は温暖化しているのか、また映像で探っていきましょう。
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太陽のエネルギーの約3割は雲や雪などで反射して宇宙へ戻り、残りの7割は海や陸地に吸収されます。吸収されたエネルギーは大気へと放たれます。仮にこのエネルギーが何にも遮られず逃げていくとしたら、地球の平均気温は約マイナス19度で人が暮らしにくい環境になります。ここで大切な役割を果たしているのが大気中の二酸化炭素や水蒸気などの温室効果ガスなのです。温室効果ガスは地表から放たれる熱を吸収します。その熱はまた大気へと放たれその一部が地表を再び温めます。温室効果ガスが熱を宇宙へ逃げにくくすることで地球の平均気温を約14度に保ち、暮らしやすい環境を作り出しているのです。
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どうでしょう。二酸化炭素は悪者のイメージが強いかもしれませんが、二酸化炭素がなかったら地球はマイナス19度になるのです。それでは人は住めません。二酸化炭素は必要なものなのです。しかし、それが増え過ぎてしまったのが温暖化の原因ということです。人は昔から二酸化炭素を出していましたが、森や海が吸収してくれていました。ところが森林がどんどん伐採されて街が都市化され、ガソリン車が走り、工場が建つようになりました。排出量は増え、吸収する量は減ってきたのです。
――どうすれば防げるか
現状の温暖化対策を継続しても2100年には気温が2.6〜4.8度上がってしまいます。一方でもっと厳しい対策をとれば0.3〜1.7度に抑えられるとも言われています。地球温暖化は止められないものではなく、地球上の私たちが努力することで抑えることができるのです。
温暖化を防ぐために、私たちにできることを考えなければなりません。考え方の一つに「緩和」と「適応」ということがあります。「適応」は温暖化による悪影響に備えること。例えば熱中症を予防するために暑い日は外での運動を控えるとか、早い避難を心がけるといったことが挙げられます。「緩和」は二酸化炭素の排出量を減らしていくこと。太陽や風などの自然エネルギーを利用する、森林を増やすなどが考えられます。この両方をやっていく必要があります。天気予報の活用も適応策の一つです。最近では台風の進路や勢力などは5日ぐらい前から正確に予測できるようになりました。予報の精度が上がると早い避難が可能になります。日頃からハザードマップで自分の居場所の危険性を知っておくこと、情報が出たらどのタイミングでどこに避難するかを考えておくことも大事です。
それと、二酸化炭素を減らすことです。国際社会は2015年に、2020年以降の気温上昇を2度以内、できれば1.5度以内に抑えようと決めました。「パリ協定」と言います。しかし、今の生活のまま進むと2030年から50年の間に1.5度に到達してしまいます。さらに強力な対策が必要だということで、脱炭素社会ということが叫ばれています。2050年に二酸化炭素の排出量を、吸収量を差し引いて実質ゼロにしようという取り組みで、世界も日本も躍起になっています。
――私たちにできること
エネルギーの問題というとむずかしく思えるかもしれませんが、身近な問題として考えてみましょう。例えばみなさんも食べるハンバーガー、材料の牛肉はアメリカ産やオーストラリア産が主流です。海外から運ぶには船にしろ飛行機にしろ二酸化炭素を出します。もう一つ、クリスマスケーキにはよくイチゴが載っています。春が旬のイチゴを、ビニールハウスで暖房を使って育て、冬に食べる。イチゴでなくても、という気がします。地産地消と言いますが、地元のもの、旬のものを食べるのがよいのではないでしょうか。こうして考えてみると、私たちにもできることはたくさんあるのです。みなさんが大人になった時に住みやすい地球であるために、次の世代の人たちに住みやすく豊かな地球を残していくために、取り組むことが重要です。
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後半は16の班に分かれてグループワークです。宿題として出されていた、気象トピックが盛り込まれた未来年表をもとに、地球温暖化の防止策や備えについて話し合い、リーダー役の6年生がアイディアをまとめて発表しました。出されたアイディアをいくつか紹介します。
・海の水を淡水化し飲料水として利用することで海面上昇を抑える。
・車に太陽光パネルや風車を設置し発電しながら走れるようにする。余った電力は貯めて家でも利用する。
・全ての人が1本ずつ植物を植えることを義務化し、光合成によって二酸化炭素を削減する。
・プラスチックの使用をやめ、植林によって得た木製品を利用する。
・二酸化炭素を酸素と炭素に分解して利用する技術を確立する。
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<修了式>
子ども大学よこはまの2022年度修了式が2月12日、横浜市立大学金沢八景キャンパスのピオニーホールで行われ、8期生93人(4年生27人、5年生31人、6年生35人)が1年間の学びを終えました。
今年度は全5回の授業を全て対面で実施。実習やグループワークを取り入れた授業もあり、仲間と協力して学ぶ楽しさを体感しました。主体性をもって生き生きと学ぶ様子は新聞(10月28日読売新聞朝刊神奈川県版)でも紹介されました。
大年美津子理事長は「みなさんにはこれから自分の考えでいろいろな選択をしながら勉強に向き合っていくという未来が待っています。この1年間、自分の意思でこの大学に通った経験を忘れずがんばってください」と激励。榊原洋一学長は「小中学校はすでに答えがわかっていることを学び、大学はまだ答えがないことを研究します。みなさんはこの場で先生の話をもとに自ら考えるという、まさに大学の授業に取り組みました。これからも常識や前例にとらわれない新しいアイディアを生かして学びを深めてください」とお祝いの言葉を述べました。