2022年度 第4回授業

   

第4回授業 「AIについて〜 何ができる? 何ができない? 〜」

11月27日(日)14:00~16:00 横浜市立大学カメリアホール(横浜市金沢区)

講師:越仲 孝文(こしなか・たかふみ)先生

 (横浜市立大学データサイエンス学部教授)

受講者76人(4年生23人、5年生26人、6年生27人)

 

 

 今や私たちの生活になくてはならないものになったAI。プログラムに従って動くマイクロコンピュータと違い、使う人の行動や好みを自ら学習してその人に合うようにカスタマイズしてくれる、さらにこれまでの経験を基に予測を立て新たなことにも対処できるという優れものです。とてもむずかしくて縁遠い技術のように思われがちですが、スマートフォンやロボット掃除機、エアコンなど案外私たちの身近なところにも応用されています。日進月歩のAIの技術革新はどこまで進むのでしょうか、そして進化に伴う弊害はないのでしょうか。越仲先生に教えてもらいました。

 以下、越仲先生の講義の要約です。

  

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――AIってなんだろう 

 きょうはAIについて説明していきますが、まず最初に「AIってなんだろう」ということを考えてみます。AIは日本語では「人工知能」と呼んでいます。「Artificial Intelligence」(アーティフィシャル・インテリジェンス)の略です。Artificialは「人工的な」「人間が作った」「自然でない」という意味、Intelligenceは「知能」「知性」「知力」のことです。ですから、「AIってなんだろう」と考えることは、「知能ってなんだろう」「かしこいってなんだろう」と考えることと同じです。「かしこい」とは何でしょう。いろいろな言い方ができるでしょうが、自ら考える「自律性」と的確な「判断力」を持っていること、と言ってもいいでしょうか。

 「AIとは」の問いに対する答えは決まっていません。AIの研究者に尋ねても、「人間とそっくりなもの」だとか「ちょっとかしこければAI」「いや人間よりかしこいものだ」など、さまざまな答えが返ってきます。何がAIで何がAIではないのか、実はよくわからないのです。ただ、AIの究極の目標は「人間」であるということは言えると思います。つまり「AIってなんだろう」とはイコール「人間ってなんだろう」という問いなのです。それを考えるのがAIを研究することです。 

 

――ここ10年の進歩 

 AIはどれだけ身近になったでしょうか。顔認証による入国審査、アマゾン・エコーやグーグル・ホームなどのスマートスピーカー、産業用ロボット、街頭監視システム、ゲームで人間を打ち負かすロボット、無人店舗などなど、いろいろ実用化されています。

 AIはこの10年で急速に進歩しました。ディープ・ラーニングという技術が発見されたからです。ディープ・ラーニングは「深い学習」という意味で、ヒトや動物の脳の働きをお手本にした技術です。ヒトの脳には100億〜180億個のニューロンという神経細胞があります。このニューロンが光、音、温度、においなどの信号を受け取って、他のニューロンに伝えていきます。外から入ってきた情報を処理して他の細胞に渡していくというこの働きを繰り返すことで人間は光や音などを認識できているわけです。これをコンピュータで真似てみたのが、ディープ・ラーニングです。

 人や動物のニューロンの働きはとても複雑ですが、それを簡単にしてコンピュータで計算できる形にしたわけです。これにより、たくさんのニューロンが協力して何回も計算を繰り返すことでいろいろな情報処理ができるようになりました。

 コンピュータで計算できるニューロンは実は1980年代から知られていましたが、当時はコンピュータに覚え込ませる大量のデータがなく、それを処理できる強力なコンピュータもありませんでした。しかし、インターネットの発達でデータが飛躍的に増えコンピュータのパワーも上がって、約10年前にディープ・ラーニングが誕生したのです。

 

――AIはどう学習するか

 では、AIはどのように学習するのか、「強化学習」というタイプのもので実際にその様子を見てみましょう。マス目の中にヤギAIがいて、一番離れたマス目にエサになる牧草があります。そして途中のマス目にはオオカミがいて邪魔をします。ヤギAIはどう進んだら牧草を食べられるでしょうか。①上下左右に動ける②オオカミにぶつかったら減点③草にたどり着けたら得点――というルールのもとで動かしてみます。すると、最初のうちはすぐにオオカミにぶつかってしまいますが、何回も繰り返すうちにオオカミの近くのマス目を避けるようになり、ついに失敗しなくなります。

 このようにAIは最初は何もわかっていません。もともと知識はないし常識もないのです。そこから何度も何度も試行錯誤を繰り返すことで学習していきます。学習の方法は人間が書いたプログラムによって与えられます。つまりAIの実態はプログラムなのです。ずいぶん手間のかかることをしているように思えますが、このヤギAIと同じ技術が自動運転や外科手術ロボットなどにも応用されているのです。

 

――AIは人間を超えるか 

 最近は、囲碁将棋で人間に勝利するなど、AIは人間を超え始めたとも言われます。そのうちに人間の仕事はAIに奪われるのではないかという声もあります。少し前までは、頭を使わない単純な作業は奪われるが、研究開発や芸術などのクリエイティブな仕事は奪われないと言われていました。しかし、今日では人間が解けなかった数学の難問を解けるAIが登場し、絵を描くAIの技術も向上してきています。 

 人間がAIに支配される日は果たして来るのでしょうか。アメリカの未来学者は、2045年ごろにAIの知能が高まって自分で学習する能力を持ち始め、人間を超える「超知能」になると予想しました。これを「シンギュラリティ」と呼びます。この予想を信じる人は多いのですが、研究者の大多数はシンギュラリティはそう簡単に起こらないとみています。近い将来においても難しいと思い ます。

 

 ――AIのはじまり

 コンピュータの誕生は1946年、アメリカ陸軍が開発したエニアック(ENIAC)が第1号と言われています。高さが2.5メートル、幅が24メートルという巨大なもので、消費電力はエアコン60台をフル稼働させられる17万キロワット。1秒間に500回の演算ができる処理速度でした。現代のスマートフォンの処理速度は1秒に4000億回ですから、エニアックの約8億倍です。1949年にはアメリカの数学者がコンピュータを使ってロシア語を英訳するアイデアを思いつきました。グーグルの翻訳機能につながるアイデアです。そして1956年に10人の研究者が2か月間にわたって「高い知能を持つ機械を作る」というテーマで議論し、そこでこの研究分野の名称が「人工知能」と決まりました。

 

――会話するAI

 人間と会話ができるということはAIの究極のゴールの一つです。会話型AIは音声認識、自然言語処理、音声合成という3種類のAIの協力で成り立っています。音声は空気の振動ですが、AIはこれを認識し、文字テキストに変換したうえで適切な応答を見つけ出し、それを音声に合成するのです。この機能を使ったのが、初の実用的な会話型AIであるアップルのシリや、ディープ・ラーニング技術を使った最先端システムのグーグルのデュプレクスです。

 音声なしで文字だけでやり取りするチャットボットも近年実用化が進んでいます。最先端のチャットボットとしては2021年に発表されたグーグルのラムダがあります。ディープ・ラーニングで大量のデータを学習し、ほとんどどんな会話にも対応できます。グーグル社内でテストを担当したソフトエンジニアによると、ラムダは「電源を切られて死ぬのはこわい」と話したそうです。このエンジニアは「ラムダには人間と同じように意識や感情がある」と述べています。  

 会話するAIは今や色々な場面で人の役に立っています。最先端のものは人間に近いレベルまで来ているのです。