2021年度 第5回授業・修了式

「脳外科医になったら~脳神経のしくみと病気、手術のお話~

 3月5日(土)14:00~16:30  横浜市立大学 金沢八景キャンパス カメリアホール

 講師:山本 哲哉やまもと てつや)先生 

    (横浜市立大脳神経外科学主任教授・同大附属病院副病院長

  

 2021年度最後の授業は、脳外科医の仕事について学びました。病院には対象とす

            る患者や身体の部位、病気・けがの種類よってさまざまな診療科が置かれていますが、

            山本先生の専は脳神経外科。脳・脊髄(せきずい)・神経を診断し治療する診療科で、

            脳卒中などの脳血管障害、頭部外傷、脳腫瘍(のうしゅよう)などの診察や手術を行っ

            ています。

             この日の授業では、学生たち自らが“医師”になり、山本先生の指導のもとで神経の障

            害を調べる検査の実習を行い、患者の症状から病気の原因を探る“診断”にも挑戦しまし

            た。

                         ☆☆☆   ☆☆☆  ☆☆☆   ☆☆☆

 

          ――脳卒中のサイン「FAST

          授業ではまず、脳卒中を見極める「FAST(ファスト)」というキーワードを教わり

         ました。F」はフェイス(Face・顔)、「A」はアーム(Arm・腕)、「S」はスピ

         チ(Speech・話こと)。口がへんにゆがんでいないか、左右どちらかの腕に麻痺

         (まひ)()はないか、言葉を普通に話せているか――をみます。この「FAS」の症状がひ

         とつでも出ていれば脳卒中の可能性が高いということになります。最後の「T」はタイ

         ム(Time・時間)。これらの症状があったら「すぐに病院へ」ということを警告して

         います。発症から治療開始までの時間が重要なのです。       

――実習で検査を体験

 「FAST(ファスト)」の「A」、腕の麻痺を調べる方法に「バレーサイン」があり

ます。どんな方法なのか、学生同士でペアを作り、山本先生の指導に従って実際に体

験してみました。まず座って目を閉じ、手のひらを真上に向けて両腕を前に水平に差

し出します。そしてそのままの姿勢を維持してもらいます。麻痺がある場合は、麻痺

している側の手のひらが自然に内側に回転し、腕がしだいに下がってくるのだそうで

す。

         ほかにも、神経の異常を調べる膝蓋腱反射や、アキレス腱、上腕二頭筋、上腕三頭筋

         の反射、黒目に光を当てて、瞳孔の収縮をみる対光反射などの実習も行いました。

 

         ――診断にチャレンジ

          さて、いよいよ病気の診断にチャレンジです。まず山本先生から次のような症例が

         提示されました。

 

         【患者47歳】

         6か月前から疲れると物がダブって見え、目薬をさしていた。2週間前、右目が外に寄っ

         ているのに家族がきづいた。けさになって右目は内側・上側・下側にはほとんど動かな

         い。左目は正常。高血圧で内服治療している。             

 右目の異常の原因はどこにあるのか・・・学生たちはこの日学んだ知識を総動員し

て、病気の解明に挑みます。

 ・バレーサインや反射検査の結果は正常。

 ・仮に脳出血なら発症した途端に意識をなくして倒れたりするはずだから、このケ

  スはあたらない。

 ・右目は外側しか向けない。目を動かす動眼神経があやしいのでは。 

 ・動眼神経はどこをどんなふうに通っているのか、系統図を調べてみよう。

              ・両目でなく右目だけに影響が出ている。動眼神経のどの部分が悪いのかな。

 

              山本先生と学生たちは、いろいろな可能性を一つずつ検討しながら徐々に原因を絞り

            込んでいきます。そして、動眼神経に接して走る内頸動脈の存在に気づきます。実は、

            内頸動脈にこぶ()ができて、動眼神経を圧迫していた、というのが正解でした。

            脈瘤を引き起こしやすいとされるのは高血圧。内服治療も大きなヒントだったわけで

            す。 

         ――まとめ 

              授業の最後に山本先生は、①勉強することはいっぱいあるが、むずかしいことでもチ

             ャレンしてみよう。そうすれば少しずつ自分の力になる②練習、訓練を続けよう。一

             番になる必要はない。自己ベストを目指そう③「楽しい」「おもしろい」を大切に。そ

             の気持ちをいつまでも持ち続けよう――と呼びかけました。

              医学用語も混じえての高度な授業でしたが、学生たちは正しい診断を導き出すために  

             はしっかりした知識と論理的な考え方が大切だということを学び、これまで以上に医療

             への関心を高めたようでした。  

<修了式>

 第5回授業終了後、2021年度子ども大学よこはまの修了式を行いました。1年間の学

びをまっとうした7期生(45人)に修了証が授与されました。

 新型コロナウィルス感染症の拡大が収まらず、授業は最初の3回をオンラインで、4、

5回目は感染対策を講じ対面授業で行いました。仲間と一緒に学ぶ対面授業はやはり楽

しそうでしたが、オンライン授業も新しい学びの可能性を広げてくれました。

              大年美津子理事長は1年を振り返り、「みなさんは実際は小学生ですが、ここは仮想

             大学です。ですから私たちは”大学生”のみなさんに向けて授業を用意してきました。こ

             の大学でいろいろなことを知り、驚き、そして楽しく学んだことを、自分の可能性を広

             げるために役立ててください」とあいさつ。

              榊原洋一学長は「みなさんにはこれからもずっと学ぶ機会がありますが、『楽しい

             な』『おもしろいな』と思う気持ちを持ち続けてほしい。たくさんの難しい課題がみな

             さんの未来にも待っていますが、それを解決する力はみなさんの中にあります。ここで

             の学びの経験を活かして、いつか地球を救うような人になってほしいと思います」と激

             励の言葉を贈りました。