2021年度 第3回授業

「南極から ちきゅう を観る」

 9月26日(日)14:00~16:00  Zoom(オンライン)

 講師:永延 幹男(ながのぶ みきお)先生 (自然哲学者)

 

地球はいま悲鳴を上げています。二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの濃度が高まって地球の 

表面温度が上がり、その影響で生態系が乱れ、海面が上昇し、異常気象が多発しているのです。

            地球に暮らす私たちにとってもっとも深刻で、かつ身近な問題です。第3回の授業は、南極海で

            生物資源の調査研究を続けておられる永延先生をお迎えし、南極の自然環境の変化について、た       

            くさんの写真や図表もまじえてわかりやすく教えて頂きました。南極を観察することで地球全体        

            の環境が直面している課題がよく見えてきました。そして地球を救うために自分たちに何ができ 

            るのか、そのヒントを少し見つけることもできました。

            以下、講義の概要を紹介します。

 

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  ――なぜ南極へ

  最初に、なぜ南極に行くことになったのか、お話しします。私の出身地は福岡県八女地方といういなかのまち

  です。小学4年生のころ、友達とお金を出し合って市の地図を買い、それを頼りに自転車で知らない場所をあ

  ちこち探検して回りました。とても楽しく、ワクワクする体験でした。

 このワクワク感が忘れられず、高校では山岳部に所属、大学に入ってからはボルネオや台湾、南太平洋などを

 訪ねるようになり、どうせなら地球一周をということで出かけました。そんなことをしているうちに「地球は

 案外狭い。もう行くべきところはないのでは」と思いかけたんです。でもその時、「待てよ、南極があるな」

 と、「南極にはまだ知らない自然がいっぱいあるはずだ」と気づいたんです。小学生の頃に味わったワクワク

 感を追っかけていたら、いつのまにか南極に辿り着いたというわけです。

 ワクワクする気持ちと探究心がいかに大切かということです。

  南極にはこれまで9回行きました。観測を続ける中で、3回目か4回目ぐらいから「どうも地球はおかしなこ

  とになっているぞ」ということに気がつき始めました。

 

  ―南極の歴史

  南極は2億年前には他の大陸とひとつながりでした。その後、いくつかに分かれて移動していきますが、南極

  大陸は1億年前はまだ暖かく、7千万年前には恐竜がいたことがわかっています。

 南極点に初めて到達したのはアムンゼンという人で1911年、今からたった110年前のことです。氷や暴

 風圏という自然環境が人を阻み、発見と到達を遅らせたのです。

  南極は一言でいえば、寒いけれど豊かなところです。現在は最も厚いところでは4000メートルもの氷に覆

  われています。南極の氷が全部溶けると、世界の海面は60メートル上昇すると言われています。みんなの

  んでいる横浜も沈んでしまうのです。

 

  ――いま、南極は

  私はナンキョクオキアミとその環境生態の研究をしています。

 南極海ではオキアミを魚が、魚をペンギンが、そしてペンギンをシャチが食べるというオキアミを中心にした

 食物連鎖ができていてそれが生態系を支えています。南極海には5種類のオキアミがいますが、その中でナン

 キョクオキアミは大陸を囲む主に水温0度位の冷たい海中に生息しており、他の近縁種のオキアミはそこから

 バームクーヘン状に異なる水温帯に棲み分けて分布しています。そのナンキョクオキアミが近年減ってきてい

 るのです。

  その要因は地球の温暖化の影響と考えられています。2020年は記録を取り始めてから最も暑かった。地球

  の気温は急速に上昇しているのです。南極はどうかというと、南極点では過去30年の間に世界平均の3倍も

  温暖化が進んでいるというデータがあります。その影響で棚氷の崩壊が進んでいます。温暖化によるものか

  然循環によるものかまだはっきりしていませんが、2000年には東京都の面積の5倍もある棚氷が割れまし

  た。2014年には突然、海氷面積が激減しました。

  海水温が上昇してナンキョクオキアミが減ると南極の生態系に大きな影響を与えます。氷が溶ければ皇帝ペン

  ギンは滅んでしまいます。地球の海水は、冷たい水が下に沈み込むことで1500年かけて循環しますが、

  極の温暖化はこの海洋大循環の流れをも変えてしまいます。

 

  ――では、どうする?

  南極を探ることは地球を観察することにつながるのです。ほかにも、キリバスなどの海面上昇や珊瑚の白化、

  シベリアの永久凍土の融解などなど、世界中から警告の声が上がっています。今年の8月にはICPP(国連気候

  変動に関する政府間パネル)が「地球温暖化は人間の活動が原因」とする報告を出し、国連事務総長が「人類

  への赤信号」と発言しました。

  私たちはこの問題にどう向き合い、どうやって温暖化を防いでいけばよいのでしょうか。とても難しい問題で

  すが、みなさんと共に考えていきたいと思います。

 

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 永延先生の講義はここでいったん終了。このあと学生たちは4グループに分かれてそれぞれ質問をまとめると

 ともに、講義を聴き終えての感想や温暖化防止のために自分たちに何ができるかなどについて話し合いました。

 

 たくさんの質問が寄せられましたが、多かったのは①南極に行って一番驚いたことは②南極での食事はどんな

 ものか③縄文時代も海水面は今より高かったと思うが現在と状況はどう違うのか④温暖化を防ぐためにはどう

 すればよいか――など。

 永延先生は、①氷山に圧倒された。こんな大きなものが海に浮かんでいるのかとびっくりした②観測船には

 門のコックさんが5人位乗り込んでいるのでホテル並みに立派な食事が楽しめる③大昔と違い、今は数年、

 十年の間に早いスピードで上昇していることが問題④CO2ゼロを目指す取り組みや、SDGs(持続可能な開発

 目標)の17の目標を達成することが重要――と答えられました。

 

 また、学生たちからは「南極で起きていることがよくわかった」「南極の氷が溶けると横浜も海に沈んでしま

 うことを初めて知った」「私たちの生活で地球が壊れているんだと思った」「公共交通機関を使うなどして

 CO2を減らさなければ」「SDGsに世界中の全員で取り組まなければ」などの感想や意見が出されました。


 永延先生は、授業前と授業後の学生アンケートから、探検発想(KJ法)図解を作成してくださいました。

  図解により様々な考えや情報をまとめて全体像をつかむことができ、その作成方法についても少し教えて頂き

  ました。

【授業後の学生アンケートより永延先生作成の探検発想図解】