
「ウィルスとワクチン」
2021年6月6日 Zoom(オンライン)
講師:榊原 洋一(さかきはら よういち)先生
(チャイルドリサーチネット所長,お茶の水女子大学名誉教授,日本子ども学会理事長)
学生62名(4年生29名、5年生15名、6年生18名)参加
1. 目で見ることができないほど小さいウィルスはなぜ怖いの?
人の体に対するウィルスの大きさは『地球』に対する『人間』くらい小さい。
人の体内に入ったウィルスは、一度感染するとどんどん増え、何兆、何十兆にもなる!
そして、ウィルスの遺伝子は不安定で、すぐに変わってしまう性質がある。2週間に一回位は新しく変異しているが、
変異しても弱いもの、変わらないものもある。
2. 細菌(さいきん)とウィルスによる病気の違いは?
似ているようで違う細菌とウィルス。姿かたちも違うけれど、一番大きい違いはウィルスには細胞(さいぼう)がなくて、
増え方も違う。ウィルスによる病気と細菌による病気の種類の中で、以前はコロナウィルスよりもっと怖い病気があった。
一番怖いのは狂犬病で致死率は100%。現在はワクチンや治療薬ができてほとんど怖い病気ではなくなっている。
3. コロナウィルス感染症(COVID-19)ってどんなウィルス?
まだわからないことが多いけれど、分かってきたこともある。
子どもは大人に比べて重症化しないと言われ、死亡例もほとんど報告されていない。子どもの細胞は大人にくらべて未熟
だということがわかってきた。コロナウィルスが侵入するACE受容体が未発達なので感染しにくいが感染しても大丈夫と
いう訳ではない。症状は何にも出ない人もいれば、ちょっとした風邪の症状や、重くなると、呼吸困難で肺炎がおきて
人工呼吸器をつけたり、人工心肺エクモというものを取り付けないといけなくなる。今一番の対策は、ワクチンをうち
感染しても重症化しないようにすること。また感染しない、感染させないためにマスクをして防ぐことが大事。
【学生の質問!】
「新型コロナウィルスはなぜ突然流行したの?どこから発生したの?」
(先生)中国武漢の研究所で、元々あった毒性の弱いコロナウィルスが、動物の体の中で自然に変異したか、人工的に変異
させられたかのどちらかで、感染力が強い・毒性の強いウィルスに突然変異がおき広がったと考えられている。
「ワクチンの効果は変異株に対して変わる?」
(先生)効果が出たかを見るには2つの方法がある。1つは実際に1000人くらいに打ってみて、打たなかった人との違いを
見る。もう1つは、注射した後にその人の血液を採取して、ウィルスに対抗する「抗体」について調べる。
ワクチンを打った人の体の中には、この変異株を殺す「中和抗体」ができていることがわかっているので、変異株
にも効果はある。
「なぜ子どもはワクチンを打たないの?」
(先生)理由のひとつは、まず医療崩壊をさける目的。二つ目は、そのために重症化しやすい老人から優先に打つため。
子どもは感染しても死亡例がほとんどないため、「強い人は待っていて」ということ。医学的には子どもにもワク
チンの効果があるのはわかっている。
「ワクチンは何人で、どれくらいの期間で作られるの?」
(先生)種類によって作り方が全然違う。今までのワクチンは4~5年かかり、手間もかかっていた。ファイザーやモデルナ
社のメッセンジャーRNAワクチンは、全部化学合成によって遺伝子を作る。バイオタンクの中でどんどん作ること
ができるので、もう十何億人分くらいのワクチンができている。高度な技術がいるが、時間的には早くできる。
「ワクチンの副反応はどのくらい?」
(先生)副反応は大きく2つ。1つは打った後に打った場所が痛くなる軽い副反応で、2人に1人くらい出る。また、2回目
を打つと50%くらいの人に熱が出る。これは体の中で「抗体」というものが作られる時の反応なので、これ自体
は悪くない。皆さんが一番心配している「アナフィラキシー」という副反応は、ワクチンそのものではなくて、ワ
クチンを溶かした液の中に安定剤として入っている「ポリエチレングリコール」という化学物質による。これで以
前アレルギー反応を起こした人の1〜2万人に1人くらいにアナフィラキシーが出ます。でも、そこにお医者さんが
いて、治療する薬があれば、命に関わることはほとんどありません。注射をして大体5〜15分くらいの間に咳が出
て、ゼーゼーして、気持ち悪くなったり、血圧が下がったり、意識を失うことがある。
この時にアドレナリンを注射すると、ほぼ100%、元に戻ります。アナフィラキシーで死んでしまう多くの事例が、山の
中でスズメバチに刺され、周りにお医者さんもいない、病院もない、薬もない場合。食物アレルギーのある人は「エピペ
ン」と言って自分で注射できるものを持っていて、これを打てば元に戻る。
また「血栓ができやすくなる」という心配もありました。血栓症は、ワクチンの開発をしている人たちが、ワクチンのど
こが血栓を起こしやすくしているのかを研究して、この間その論文がでた。それに基づいてワクチンも少し変えるかもし
れないということを言っている。
今ある他のワクチンにも副反応はある。また「ワクチンを打った人が1週間以内に亡くなった」という怖い情報が出てき
たりするが、その中にはたまたまワクチンを打った1週間後に別の原因で亡くなった人も含まれていることがある。
正しい知識を持って、正しく怖がり、正しい判断をすることが大事。
「人に良い効果をもたらすウィルスはありますか?」
(先生)ウィルスの中には人に感染しても人に害を与えないものはあります。感染して良い効果をもたらすウィルスは知られ
ていませんが、大昔に人に感染した時に、ウィルスの遺伝子(DNA)の一部が、人の遺伝子の中に入り込んで、良い影響
を与えている例はあります。実は人間の遺伝子全体の8%は、大昔(何百万年以上前)に人の祖先に感染した時に人の遺
伝子に潜り込んだウィルスの遺伝子の一部です。例えば赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる時に、赤ちゃんを守る働き
をしている遺伝子は、こうした大昔のウィルスの遺伝子の一部であることがわかっています。
「人によってワクチンの効果は違うのですか?」
(先生)ワクチンを打つと、体の中でリンパ球という白血球の仲間が、抗体を作ったり、ウィルスを殺す働きのある特殊な
リンパ球に変化しますが、その量には個人差があります。そのため、作られた抗体の量が少ないと、ワクチンを打
っても感染予防の効果がなかったり、少なかったりすることはあります。新型コロナのワクチンの場合、十分に抗
体ができない率は2〜5%くらいになります。安全で効果があるとされている麻疹のワクチンでも、抗体が十分で
きない率は5%くらいあります。
たくさんの質問にていねいに答えていただきました。
榊原洋一先生、ありがとうございました!!